ストーリー

諸塚村 繋って技術を分け合い、さらなる栽培振興へ「ラナンキュラス」

ラナンキュラス栽培 藤本 靖子さん

山地に咲き誇る 大輪の花

諸塚村中心部から約30分、狭くうねる山道を登り続けると見えてくるのは、七ツ山地区にある「井戸園芸団地」だ。
山を開墾したこの団地には9棟のビニールハウスが並んでおり、藤本靖子さんは、その中の1棟でラナンキュラスを栽培している。
全国的に寒波が訪れていた2月下旬のこの日、標高700mを越えるこの場所には雪が残っていた。

2月から3月にかけてラナンキュラスは収穫のピークを迎え、藤本さんのところでは毎年3万本ほど出荷している。
取材に訪れた昼頃には、すでにこの日の出荷を終えたところだった。

藤本さんのビニールハウスには現在、17種類のラナンキュラスが育っている。


宮崎県では十数年前から、標高差や温暖多照な気候を生かしたラナンキュラス栽培の振興に取り組んでおり、オリジナル品種の育成にも力を入れている。
県内の中山間地で栽培が広がった今では、日本トップレベルの生産量と栽培面積を誇るまでになった(平成29年)。

まっすぐに、健康に。目指すは満点の美しさ。

2009年試験栽培に着手した当初、藤本さんにとってラナンキュラス栽培は全く初めての挑戦だった。
「当時は鉢植えで見かけるくらいで、あまり知らなかったんです。まさかこんなに背が伸びるなんて、驚きましたよ」。
地上50㎝以上にまで背が伸びるラナンキュラス。
その頂には、繊細な花びらが幾重にも重なり大輪の花となる。

ラナンキュラスには多種多様な色や花形があり、さらに毎年続々と新しい品種が生み出されている。

ラナンキュラスの花びらの数は、多いもので200枚以上。
その重さに負けて首をもたげてしまったり、茎が折れてしまったものは、出荷はせずに摘み取ってしまう他ない。
「花が横を向いてしまっているのを、“ヒマワリ咲き”っていうんですけどね。こういうのもうちは出してないんですよ。飾るにはとってもきれいなんだけれど」。
地と垂直に背を伸ばし、天に向かって咲き誇った花のみ、市場の流通に乗せることができる。

県内の中山間地で栽培が広がるラナンキュラスだが、諸塚村の生産者は今のところ藤本さんただ1人。
一層のラナンキュラス栽培振興を図るため発足した『ラナンキュラス研究会』に参加し、近隣の町村の生産者と共に先進地である西臼杵の圃場へ足を運んだり、情報交換をしたりしている。
「どの品種が人気だとか、まっすぐ育ってくれるかとか。どこも苦労している点は一緒だと思います」。
地道な手作業と徹底した水・温度管理が必要なラナンキュラス栽培は、生産者同士がお互いの技術を共有することで、確かな進歩を遂げてきたのだ。

2日前に導入したばかりだという「熱ハサミ」も、研修で西臼杵の生産農家から教わったものだ。熱ハサミは、刃先が100度以上にもなり、カットする際に自動でウイルスを殺菌してくれる優れものだという。
「ウイルスに感染すると、花弁に色ムラが出たりして、健康に育たなくなってしまうんですよ。今までは、品種ごとにハサミを持ち替えていました。これは病気だな、と気付いたものはさらに別のハサミに持ち替えて。使い終わった刃を一回一回バーナーで焼く手間もあったので、これは画期的ですね」。

畝の端に立てられた支柱には剪定ハサミが何本も差されていた。

「ここは平地が少ないし、新しく始めるとなるともちろんそれなりの大変さはあると思います。でも、ラナンキュラス研究会にもここ十年ほどで着々と仲間が増えてきています。最近では若い担い手も加わって、かなり心強いんですよ」と今後への期待感をにじませる。

今年は気温が低く、例年に比べて開花が遅れているのだという。
その寒さの中でも、藤本さんが毎日山道を通い、丁寧に手をかけてきたラナンキュラスは、着実につぼみをふくらませている。